2025年9月 芹田勇三さんからの投稿/狂歌集「ガンバル傘寿」

芹田勇三さんから傘寿を機に日常のあれこれを書き溜めた狂歌を投稿していただきました。ありがとうございました。

狂 歌 / ガンバル傘寿

引退後多忙度さほど変わらない通勤が通院になっただけ
ハネ飛ばし剥きカス飛ばし食器割り洗い残してわが料理人終ゆ
手が滑りうっかり落とすこと増えて志願の食器洗いも固辞さる
二枚目の声と言われた思い出を風呂で試せばクモ垂れ下がる
思い出せず「それ」「あれ」と言う数増えてどの「それ」「あれ」か思い出せない
「あれあるか」というオレへの「ないわ」という妻の返事がもはや秒速
省略のつもりの「それ」を聞く吾娘あこの「はい、それね」の「ね」が腹立たしい
「小学生みたい」と言われ「小学生の気概だ」とつぶやく傘寿
最近は「低学年」と言われている「小学生」では不正確らしい
子のくせにとついつい思いぎくしゃくの会話しかせぬ傘寿のわたし
わだかまり目つぶる傘寿に毛布かける娘の方が一枚うわ手
工夫して三倍速く読めてきた年三百冊いけるぞ傘寿
ネット上の「読書クラブ」で年齢とし伏せて登録し感想も若作りする
既読なのに未読と錯覚しおもいまた書いた書評の中味が正反対
「解説」を読み満足し実読じつどくを忘れてしまう能天気こころえちがい
ほぼメシの時しか会話なくなって妻との友好関係が不穏
考古学標本ざっくり見るごとく我見る妻の眼が変化した
ひたすらに読もうとするとき遠き耳両眼義眼レンズの傘寿は強い
七百冊ななひゃく五十冊ごじゅうまで来て千冊せんまでの道がにわかに垂直の崖
きてもなほ続ける所存つもり辞められぬ傘寿で始めし読書千冊

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