引退後多忙度さほど変わらない通勤が通院になっただけ |
ハネ飛ばし剥きカス飛ばし食器割り洗い残してわが料理人終ゆ |
手が滑りうっかり落とすこと増えて志願の食器洗いも固辞さる |
二枚目の声と言われた思い出を風呂で試せばクモ垂れ下がる |
思い出せず「それ」「あれ」と言う数増えてどの「それ」「あれ」か思い出せない |
「あれあるか」というオレへの「ないわ」という妻の返事がもはや秒速 |
省略のつもりの「それ」を聞く吾娘の「はい、それね」の「ね」が腹立たしい |
「小学生みたい」と言われ「小学生の気概だ」とつぶやく傘寿 |
最近は「低学年」と言われている「小学生」では不正確らしい |
子のくせにとついつい思いぎくしゃくの会話しかせぬ傘寿のわたし |
わだかまり目つぶる傘寿に毛布かける娘の方が一枚うわ手 |
工夫して三倍速く読めてきた年三百冊いけるぞ傘寿 |
ネット上の「読書クラブ」で年齢伏せて登録し感想も若作りする |
既読なのに未読と錯覚しまた書いた書評の中味が正反対 |
「解説」を読み満足し実読を忘れてしまう能天気 |
ほぼメシの時しか会話なくなって妻との友好関係が不穏 |
考古学標本ざっくり見るごとく我見る妻の眼が変化した |
ひたすらに読もうとするとき遠き耳両眼義眼の傘寿は強い |
七百冊と五十冊まで来て千冊までの道が急に垂直の崖 |
逝きてもなほ続ける所存辞められぬ傘寿で始めし読書千冊 |